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5Gの次を見据える大容量無線通信技術

未来ねっと研究所
李 斗煥

テラビット級の無線通信実現へ

遠隔医療、コネクテッドカー、高精細ライブ映像配信などの実現に向けて、次世代移動通信システムである5Gの活用が徐々に見えてきた今日、10年後を見据えた「その次」に早くも関心が生まれ始めている。
4Gで無線通信システムは一気に高速化を果たしたが、5Gでは多様なサービスを提供するため、大規模同時アクセスや低遅延の無線通信技術の実現に力が注がれている。今後5Gの活用が広がることで、さらなる大容量化のニーズが高まってくるだろう。
「5Gの普及によって、今後、無線トラヒックが爆発的に増加するのは確実でしょう。5Gでは20Gbpsが目標とされていますが、その普及につれ、さらなる大容量の無線通信技術が必要になると予想しています。そこで私たちは、世界初のテラビット級(1Tbpsは20Gbpsの50倍)無線通信システムの実現に向けた研究を行っています」
今後、高速で多様な無線通信を行う端末が増加すると、端末のトラヒックを束ねるスモールセルと呼ばれる無線基地局の機動力が大いに利用されるようになると考えられる。例えば、多数の8K/16K映像を伝送するには、テラビット級の無線通信技術が求められるだろう。李らが挑戦するのは、来たる時代のサービスを支えるための革新的な無線通信技術である。

最新技術の活用により、弱点を克服

テラビット級の無線通信を実現するべく、李らは、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)多重伝送という技術に着目し、空間多重数の増加による大容量化をめざしている。OAMとは、電波の進行方向の垂直平面上で電界の位相分布が回転するように表される電波の性質の一つであり、OAMの性質を持つ電波の伝搬は、同一位相の軌跡が進行方向に対してらせん形状になる特徴がある。
「OAMの性質を持つ電波は、送信時と同じ位相の回転数を持った受信機でないと受信できません」
イメージとしては、送信機と受信機の関係がボルトとナットの関係のようにらせん構造の噛み合ったもの同士でないと通過できない状態だ。
「それは、異なる複数の回転数に対応した送信機と受信機のセットを用意すれば、同じ周波数帯域の複数の電波を重ねて同時に送れることを意味します」
このOAM多重伝送という技術自体は古くから検討されていて、決して新しい技術というわけではない。ただし、理論上は無限に重ねることができるOAM多重伝送であっても、回転数が高くなるとOAMを用いた電波は、進行とともにビームが空間的に広がる性質があり、遠くまで伝送させることが困難であったことから実用化には至らなかった。
「回転数の増加にともなうビームの広がりという課題は、高い周波数を使うことで解決ができます。近年、ミリ波などの高周波数帯利用技術が発展し、高い周波数帯の電波が活用されつつあります。NTTは、28GHz帯以上において、世界で初めて複数のOAMの性質を持つ電波を同時に伝送することができる送受信装置を開発し、OAM多重伝送の実現性を示しました」

柔軟な発想と通信事業者としての経験値

MIMOと呼ばれる複数アンテナを用いて電波を重ね合わせる技術は、5GやWi-Fiなどに空間多重技術として幅広く利用されている。このMIMOとOAMを巧みに統合することで従来を凌駕する多重伝送を実現した。この「OAM-MIMO多重伝送」は李らの研究者としての最先端の視点と柔軟な発想、そしてこれまで通信事業者としてMIMOを実装してきたNTTのノウハウがあったからこそ、実現できた技術だ。
「これまで、OAM多重伝送技術は、MIMO技術とは別の空間多重技術として考えられ、MIMO技術と同時に使うアプローチはありませんでした。私たちは、発想を変えて、空間多重の方法として互いに独立であるOAM多重伝送とMIMO技術を組み合わせ、各技術の長所を活用した『OAM-MIMO多重伝送』を考案し、多重数を飛躍的に増加することができました」
この李らの研究においては、これまで実験室環境で120Gbpsの無線伝送を実現し、世界記録を達成している。現在は、特定実験試験局免許を取得し、同伝送技術を用いた屋外での大容量無線伝送の実験を実施している。また国際学会などを活用し、こうした先進的な成果を世界に先駆けて発信していく予定だ。
「5Gの次」という未来に向けた研究が熱く進められている。

※写真左から李 斗煥、八木 康徳、笹木 裕文

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